消しゴムのなおこ。
小中と同級生だった、なおこ(仮名)という子がいた。運動神経がよく、声が大きい、つり目の子だった。なおこは、昔から我が強かった。
彼女のそれが顕著に現れたのは、小学四年のときであった。クラスで6人ずつ席をくっつけて、何かアイデアを出し、まとめて発表するという時間だった。なおこは元気よく手をあげ、話をまとめながら書記もやっていた。今思えば、とても出来たやつだ。
たぶん、遠足に行った先の公園で、何をして遊ぶかを決めて…、などの他愛もない、しかし当時の僕らには重要なテーマであったように記憶している。
途中で、なおこが誰かの意見に反論した。反論といっても、「やりたくない」レベルのもので、好き嫌いの話だ。
明らかになおこは機嫌を悪くしている。今までの話し合いが意味なくなるという趣旨のことを支離滅裂に言い立て、いよいよ話し合いが前に進まなくなった。
もはや彼女の意見に反論する者はいなくなってもなお、彼女の炎は燃え盛っている。
他のグループは、決まったことを前の黒板に書き始めた。それが決定打となったのか、振り返るとナオコは自分が書いたノートを消しゴムでゴリゴリ消しているではないか。
その時に走った戦慄は、今も忘れられない。
なおこに声を荒げる周囲。私も、おーい!と叫んだような気がする。
今まで自分が携わったものをゼロに戻さないと、これまでの議論に賛同したことになるとでも言いたげな凄まじい形相。力強く持ち主に握られ、その消しゴムは猛威を奮っている。
なおこは途中まで消し終え、突っ伏して泣き始めた。
消しゴムのなおこ。