父と風呂に入った
父は要介護で、平日はデイで風呂に入っている。土日は、日曜の夜だけ家の風呂に入る。リフォームした手すり付きの風呂に入る。
今までは母がずっとやってたのだ。小さい体ですごいと思う。私が実家に帰ってきてからは、基本的にずっと私がやってる。
父は威厳ある人だった。どこか偉そうで横柄なところもある人だった。今も、例えば自宅の電話に掛かってくる勧誘の相手に向かってトンデモナイ態度をとるので、下品だと厳しく指摘するようにしている。プンプン。
父は小さい頃からずっと音楽をやっていて、趣味がこうじてプロのバックバンドもたまにやっていた。病気をして要介護になってすぐの時は、母いわく、しばらく音楽を聴くのを嫌がっていたらしいが、ある日の夕方、父は大好きな久保田利伸を聞きながら、動く左腕と左脚でリズムを叩いていることがあった。そのタイトなリズムは、まさしく父が得意としていた16ビートの裏裏を感じる、父の好きなリズムパターンだった。
その話をすると、母は驚いて少し泣いていた。二人が出会ったきっかけも音楽だったもんね。
父は、私に頼みごとをするとき、少し申し訳なさそうにする。自分一人では生活に不自由があることを少しずつ受け入れている父の葛藤を、私は感じ取っていた。
日々の介護の中で最もそれを感じるのは風呂だった。一緒に浴室に入り、背中を洗ったり、動かない右足を浴槽に入るようアシストする。
何も考えずに、私はパンツ一丁でずっと携わっていたのだけど、今日は湯船が気持ちよくて全裸になり、要するに一緒に風呂に入った。浴槽は二人も入れる広さは無いので代わりばんこ。
家の風呂に一緒に入るのは、恐らく22年ぶりであろう。気のせいか、父の表情がいつもより柔らかい気がした。
なんでもっと早く気づかなかったんだろう。やはり、裸の付き合いは大事だ。ポカポカ。